TSTech Beyond Comfort

座Interview Special Edition

「こんなにすごいんだ、シートエンジニアリング。」zecOO設計・製作 中村 正樹

2015年秋、大型電動バイク「zecOO(ゼクウ)」がさらに進化する。
50年以上シートを作り続けるテイ・エス テックと、zecOOのチームが、シートを共同開発したのだ。
この取り組みは、座るを哲学し科学する研究会「座ラボ」が発端となった初のプロジェクト。
今まさに共同開発が進むなか、zecOOの車体設計・製造を一手に担う中村正樹氏に話を伺った。
zecOOの「座る」は、どのように進化するのか。そして、その先にある「座る」の未来とは。

Profile

中村 正樹Masaki Nakamura

1961年、千葉県生まれ。千葉県自動車技術専門学校を卒業したのちオートバイ販売店「オートスタッフ末広」で、オートバイの整備、販売の仕事に就く。ただオートバイを販売するだけではなく、合法改造にこだわり、多くのカスタム社を製造。1995年には、当時は不可能と考えられていた自社フレームを使った組立オートバイを完成、ナンバー取得に成功している。2000年から有限会社オートスタッフ末広、代表取締役に就任。

デザインを見て、手が震えた

テイ・エス テックとツナグデザインの
共同開発シートを搭載したzecOO

まず、一目見て、これまでのバイクとは全く違う。しかも、公道を走れる。つまり法令をクリアしてナンバーを取ることができるデザインになっている。いわゆるコンセプトモデルなんかとは、はじめから全く違ったんです。

僕は、知人の紹介でデザイナーの根津さんと出会いました。当時、僕が作りたい!と思っていたリバース・トライク*1の相談をしたら、すぐに手を貸してくれたんです。そこで出来たのが、「ウロボロス」です。すると、今度は根津さんから「これを一緒に作りませんか」と相談をいただきました。それが“zecOO”だったんです。はじめは、根津さんを「ウロボロス」に巻き込んだのは僕でしたので、今度は手伝わないとなと思っただけでした。ところが、大袈裟かもしれませんが、根津さんのデザインラフ(初期のデザイン画)を見せてもらって、手が震えました。これは絶対にやらなきゃいけない、そして、これが未来のバイクだと強く感じましたね。

*1リバース・トライク:前2輪後1輪のオートバイ
3つの車輪が車両中心線に対して左右対称な二等辺三角形に配置されたもの

“zecOO”が未来を見せる

テイ・エス テック社員と

僕の仕事は、デザイナーである根津さんが考えたものを、ちゃんと公道を走れるように実現することです。“zecOO”は、エンジンではなく電動のため、設計の自由度が上がり、いろんなチャレンジができました。もともとバイクのデザインには、2つのタイヤ、エンジン、ガソリンタンク、マフラーなどの一定の制約があります。しかし、電動だとエンジンなどがありません。これらの制約が減るおかげで、「これはバイクが変わるな」と設計しながら強く感じました。

実際、電動バイクは運転するときの感覚がエンジンバイクとは全く違います。エンジンの場合、アクセルを開けて、少しタメがあってからトルクが発生します。ところが電動バイクにはそのタメがありません。回転を上げていくと、フラットにトルクが上がっていく。考えてみると、これは理想的なパワーユニットなんです。エンジンバイクはなくならないと思いますが、電動バイクも大きく普及するだろうと確信しています。だから、きっと“zecOO”は、その未来を見せるんです。

常識外れの“可変”シート

今回、テイ・エス テックさんがプロジェクトに加わって「シートのエンジニアリングって、こんなにすごいんだ」と驚きました。正直なところ、長い間バイクをいじってきましたが、シートについてあまり意識したことはなかったんです。“zecOO”は、かっこよさ、デザインを大事にしたかったので、シートが薄くなる。そこでウレタンではなくゲルのシートを用いて、「痛くない」という機能のみ考慮していました。

今回共同開発したシートでは、まず「座る=安心できる」ということが実現されている。痛くないってレベルではないんです。さらに、“可変する”。スタート直後の加速時に、シートが持ちあがって、加速のGを抑える働きもしてくれます。このおかげで、電動バイク特有のタメがない、いきなりの加速に対応しています。そもそも“可変するシート”というのは、常識的に考えれば、ありえない話なんですが、それが非常に理にかなっているんです。

バイクの未来が、また拓かれる

これまでシートは、欠かすことができないけれど、バイクの性能を左右するものではないと、思い込んでいたのかもしれません。もしくは、シートの大切さに気付いてはいたけれど、他の部分を考えるあまりに、忘れてしまっていたのかもしれません。さらには、自分はシートのプロじゃない、という意識もあったのかもしれませんね。

しかし、今は違います。バイクのシートは、手付かずの場所だと思います。バイクに携わっている人間で、そこまでシートを強く意識している人は少ないと思うんです。だからこそ、今回のような新しい技術、シートテクノロジーがもっとバイクと融合することで、バイクの未来がまた拓かれると思うんです。僕は、それを考えるだけでワクワクしますね。

ワクワクできる限り、ものづくりを

僕みたいに、ずっとバイクをいじり続けている人間、あるいは根津さんみたいに「こんなことできないかな」、「やってみたいな」と考え続けている人って、身体は大人になったけれど、心はずっと子供のままなのかもしれません。「もっとこうしたら」、「こうしたい!」といつも考えているんです。“zecOO”は一台一台、注文生産です。ある意味、常に進化し続けられる。今回のテイ・エス テックさんとのプロジェクトも、進化のひとつです。

今回、個人的に熱くなったのは、「可変・変形」です。シンプルに、「おおっ」とワクワクできる、それはとても大事だと思うんですよ。僕はきっと、このワクワクを感じることができる限り、ものづくりにこだわり続けるでしょうね。

「気持ち高ぶるシートが人とマシンの新たな関係を生む。」クリエイティブ・コミュニケータ 根津 孝太
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